綾瀬市
人口 :8.4万人(令和5年1月1日時点)
事業目的 :フレイル予防
導入サービス:みんチャレフレイル予防
SDGsの目標
綾瀬市では、長引くコロナ禍で高齢者のイベントでの他者との交流が減少。自粛期間終了後に身体機能、認知機能の低下について高齢者からの相談が増加していました。綾瀬市 地域包括ケア推進課は、健康長寿のためには、運動や栄養だけでなく『人との関わり』が大切だと考えています。そこで、リアルの通いの場を補完する目的で令和4年度から「習慣化アプリみんチャレでフレイル予防事業」を開始しました。高齢者が、コロナ禍のような社会情勢や熱中症等の環境要因に左右されずに、手元にあるスマートフォンを活用して、人とのつながりを維持しながら健康になる新しいフレイル予防の仕組みづくりを推進しています。今回インタビューに応じていただいたのは、綾瀬市 地域包括ケア推進課 地域包括担当 係長 橋本 寿久さんです。橋本さんは、平成18年の地域包括支援センター立ち上げ時からセンターに所属し、保健師と主任ケアマネージャーの2つの専門職の資格を持っています。
導入のきっかけ
橋本:綾瀬市ではコロナ禍で令和2年度に多くの事業が停滞していました。特に介護予防事業は大きな打撃を受け、定期的に行われている地域の高齢者サロン(※)も全て自粛する事態となっていました。その時、このままではまずいと課内で声をあげて、ICTを活用した新しい介護予防の取組を探しはじめました。
そこから他自治体の取組をいくつか調べました。当時はICT活用の取組が少なく、九州産業大学のeスポーツの研究や国が主催する地域包括ケアシステムに関するセミナーの情報などからどういった取組があるのかを知りました。その時に地域の理学療法士の方からみんチャレをご紹介いただき、話を聞きました。打合せ後、みんチャレは無料アプリとして公開されているので、すぐに自分でも使ってみました。実際にアプリを使ってみて非常に使いやすく、これならば高齢者の方でも使いこなせるのではないかと感じました。
*高齢者サロン:高齢者の集い・通いの場 (参考)https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-shakai/koreisha-tsudoinoba.html
導入前の課題
橋本:導入の前に課内で議論に上がったのが、実際に高齢者がスマホをどれくらい扱えるのか、高齢者のアプリを使ってみた反応はどうかという点でした。これを知るために令和3年度は実証実験からスタートしました。 実証実験では、地域サロン団体の会長7名を対象に、「みんチャレ」の2回連続講座を実施しました。
2回講座では、途中で挫折するとか、スマホを操作してネガティブに反応するという方はおらず、これならば事業として実施できると思いました。また、これまでは基本チェックリストで主観的健康度を評価していましたが、みんチャレでは成果を歩数変化という客観的データで示せるのがよかったです。この時の参加者の歩数は、アプリ利用開始5か月後に平均1,000歩増加していました。
結果を課内に共有し、新規事業としての予算化に臨みました。財源は、一般介護予防事業の地域支援事業交付金を活用しました。同時に課内では介護予防事業全体の整理・見直しをすることで、前年度予算は超えませんでした。財政担当や議会からはネガティブな反応はなく、むしろ新規事業として注目されポジティブなコメントをもらいました。
事業内容
橋本:こういったプロセスを経て、令和4年度から一般介護予防事業として、地域包括支援センターと連携して「習慣化アプリみんチャレでフレイル予防事業」を実施することになりました。
「みんチャレ」は、新しい習慣を身につけたい人が最大5人1組のチームに参加してチャットで励まし合いながら習慣化にチャレンジするスマホアプリです。綾瀬市では、人と励まし合いながら健康づくりの習慣を作ることを目的にみんチャレを活用しました。
みんチャレ講座の初回では、その時に集まった参加者同士で自己紹介をし、みんチャレでウォーキングのチームを組みます。その後、チャットでのメッセージ送信方法や写真撮影方法、写真の送信方法などのアプリ操作をレクチャーします。最後に、チーム名やチームでの1日の歩数目標を話し合って決めます。この辺りは、エーテンラボの講座講師の方がきっちりファシリテートしてくれます。これによって、毎日みんなで励ましあいながら歩数を意識した生活が始まります。
橋本:1週間後、2回目のみんチャレ講座では上手くアプリが使えているかどうかの復習と習慣化ができた証としてアプリ上でもらえるコインを使った寄付の仕方の説明を行います。寄付プロジェクトは、以前から高齢者向けのボランティアポイント事業をやってみたかったため、立ち上げられて非常に嬉しかったです。参加者からは「自分が毎日頑張ることで寄付ができるのは嬉しい」と好評です。
どのようなプロセスで実施したか
ー告知方法
橋本:当初は希望するサロン団体向けに直接講座を実施する予定でしたが、コロナ禍でサロン活動自体が自粛になってしまったため断念し、希望者を個別に募る形に変更しました。
橋本:この変更によって、地域包括支援センターへの協力要請を行いました。綾瀬市の地域包括支援センターでは介護予防事業はやっておらず、相談業務と介護予防プランの作成で手いっぱいでしたが、予算確保や講師派遣は市が負担するため、包括では告知と集客をお願いしたいと役割分担を依頼することで協力体制を築きました。
市の広報誌や地域包括支援センターでのチラシ配布により事業を周知しました。また、市で実施しているスマホ講習会でも告知し、そこから参加してくれる方もいました。
ー事業の実施方法
橋本:コロナ蔓延の影響で、当初スケジュールや周知方法の変更を余儀なくされましたが、なんとか令和4年11月から「みんチャレ」講座を開始しました。講座は、参加者同士が初対面ということもありますが、それよりも新しいアプリを使うことへの緊張感や不安感が伝わってきました。しかし、講座の内容はしっかりと考えられており、講座が終わる頃には参加者同士で気心が知れて和気あいあいとした雰囲気になっていました。
実際に講座を行ってみて驚いたことは、スマホの設定でアプリをダウンロードするためのGoogle Playの使用がオフにされている方がいたり、二次元バーコードを読み取ったことがないという方がいたりしたことです。想定外のことはありましたが、私自身スマホサポートの経験値が上がっていったことやエーテンラボの講師の方の手助けで解決しました。
また、アプリの使い方についても、最初は歩数が投稿できずにつまづいていた方が他のメンバーからの助言を受けてできるようになるということを目の当たりにして、高齢期だからといってできないことはないなと確信しました。
導入成果
ー取り組み成果
橋本:令和4年度は42名が「みんチャレ」に参加し、フレイル予防に結びつけることができました。みんチャレ開始後90日間の継続者数は25名で、90日後の継続率60%と高い数値となっています。
橋本:人と励まし合いながら健康づくりの習慣を作ることを目的とした事業のため、アプリを使い続けてくれることを重視しています。講座に参加するだけでなく、講座が終わった後もその場で集まった方々がアプリ上でコミュニケーションを取り続けてくれることは非常に嬉しいです。
橋本:また、綾瀬市でも市民からの行政手続きをデジタル化する流れがあります。その中で取り残されてしまいかねない方が、本事業をきっかけにオンラインの申請手続きができるようになったり、LINEで情報を受け取られたりすることができると良いと考えています。
ー参加者の声
橋本:参加者からいただいた嬉しい声を紹介します。
「みんチャレのおかげで毎日1万歩歩けている。寄付がやりがいになっていて、コイン500枚綾瀬に寄付した。今は840枚溜めていて、次の寄付をするのが楽しみ。(女性)」
「外に行く気になる。新しい場所見つけたり、今まで知らないお花を発見したり。メッセージを送ると反応が返ってくるので、会っていないけど話しているようで友達ができたようで良い。仕事をやめて普段は奥さん以外とは話さないから刺激になってよい。(男性)」
「歩数がすごく気になって、歩数をよく見る。まだまだ歩いてないと思い、公園をくるくる回ってきては、何歩かなと計算している。みんチャレを始めて歩くことを意識できるようになって良いチャンスを与えてもらったと思った。(女性)」
参加者の60%以上の方がみんチャレを使い続けてくれていて、事業の狙いが達成できたと思っています。
ー職員(保健師/ケアマネージャー)目線のメリット
橋本:介護予防事業をやっていて、長らく参加者を増やそうと思って努力してきました。チェックリストに該当があった人に対して、電話で誘い掛けをしても断られたり、訪問までしても「やっぱ自分にはいいや」と言われたりしていました。行動変容に当てはめると、これは行動を変えようと思っていない無関心期にアプローチしていたのではないかということです。
これに対してスマホを持っている高齢者は、一歩進んだ関心期にいると思います。スマホを使いたいというポジティブな思いもあれば、持っていることへの不安(詐欺にあわないかとか?)もあると思いますが、関心が多少なりとも高まっている状態です。
講座参加者の中には、確かにアプリを使うことができなかった高齢者の方もいました。彼らの場合、文字を入力するにも指が太くて文字が上手く打てなかったり、 液晶の画面に手首が当たってしまうので、操作ができなかったり、これは講座の中では直せませんでした。でも彼らもスマホは使いたいという思いを持っていたと感じました。
こういった方々にみんチャレ講座に参加して頂ければ、あまり意識せずにフレイル予防の習慣を作っていけるのではないかと思っています。そして、今後はスマートフォンを使ったフレイル予防が広まっていくだろうと感じています。
橋本:また、全国280自治体以上が参加する「ICTを活用したフレイル予防研究会」に参加し、事業の苦労や成果を発表する機会をいただきました。緊張しましたが、行政職員として貴重な経験をさせてもらいました。
研究会のグループトークでは、他自治体と情報交換をすることでICTを活用した事業にチャレンジしているのは自分だけではないとわかりました。綾瀬市の新規事業で経験していることを、少しでも他自治体の方へお返しできればと情報共有をさせていただきました。
今後の展望
橋本:若者を巻き込んだ他世代交流で、高齢者のサロンにてスマホのよろず相談ができるような、若者が気軽に参加してもらえるような仕組みを作っていきたいと思っています。市ではスマホ教室も実施していますが、高齢者だと単発講座での習得は難しいため、みんチャレを組み合わせて、みんチャレ事業の参加者を増やしていきます。また、「フレイル予防」という言葉は認知度が低いため、高齢者が参加しやすい訴求を工夫していきたいと思います。 ICTを活用して人と励まし合いながら健康づくりができる「習慣化アプリみんチャレでフレイル予防事業」を引き続きがんばっていきます!
取材・文:久保田 洋介 / 取材・写真:渋谷 恵(みんチャレ編集部) (※文中の敬称略。所属や氏名、インタビュー内容は取材当時のものです。)
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