墨田区
人口 :27万人(令和5年1月1日時点)
事業目的 :デジタルデバイド解消
導入サービス:みんチャレフレイル予防
SDGsの目標
墨田区では、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を目指し、令和4年度からみんチャレを活用した「高齢者ICT講習会事業」を開始。高齢者がスマートフォン(スマホ)を楽しく使う仕組みを提供し、習熟を支援することで高齢者のデジタルデバイド解消や地域住民同士のつながり強化を推進しています。今回インタビューに応じていただいたのは、墨田区 高齢者福祉課 係長(課長補佐)中島 応治さん、主事 渡邊 圭悟さんです。
導入のきっかけ
中島:コロナ禍の影響で「人との接触を避ける」ためのICT活用など、社会全体のデジタル化が進む中、デジタル技術を使いこなせる方々とそうでない方々の「デジタルデバイド」の解消が重要な課題となっています。
墨田区住民意識調査によると、高齢者のスマホ保有率は、60代で約9割、70代以上でも約6割ととても高い割合です。一方で、区民からは「スマートフォンを持っていても使い方が分からない」という声が届いていました。
そこで墨田区では、令和3年度から高齢者向けのデジタルデバイド解消事業の開始を決めました。墨田区はSDGs未来都市に選定されています。令和4年度に改定した基本計画の中ではSDGsの視点を取り入れ、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」をスローガンに、デジタルデバイド解消に注力しています。
導入前の課題
渡邊:令和3年度に実証実験として老人クラブの役員10名を対象に、基本的なスマホ操作を学ぶ講習会を実施しました。その結果、日常生活でスマホを使う機会がない人は、せっかく学んでも使いこなすことが難しいことが課題として明らかになりました。
一般的なスマホ講習会をいくら続けてもスマホの習熟にはつながらず、習熟にはスマホを日常的に利用する機会やスマホでやりとりする相手が必要だと考えました。
事業内容
渡邊:そこでこの課題を解決するために、令和4年度から老人クラブ向けに習慣化アプリ「みんチャレ」を活用したスマホ講習会を実施することにしました。
「みんチャレ」は、新しい習慣を身につけたい人が最大5人1組のチームに参加してチャットで励まし合いながら習慣化にチャレンジするスマホアプリです。墨田区では、毎日スマホに触れてスマホに慣れることを目的にみんチャレを活用しました。
渡邊:まず参加者同士はみんチャレでチームを組みます。チーム内では毎日の歩数とその日にスマホで撮影した写真をコメント付きで投稿し合います。毎日カメラ機能や文字入力を利用する機会が増えることで、スマホに慣れていきます。みんチャレで仲間と楽しく交流をつづけると自然とスマホの基本操作を習得できます。
墨田区の老人クラブは、都内最大の組織率(65歳以上の約2割が加入)が特徴です。本事業では既に知り合い同士である老人クラブ会員を対象とすることで、高齢者が安心してチームを組むことができ、講座後も互いに教え合ったり、LINEグループを作成してつながったりすることができます。
渡邊:みんチャレでは、投稿した写真に対してチームの仲間から「OK」ボタンを押してもらうとコインが貯まります。そのコインを墨田区の寄付プロジェクトに寄付することができ、区内のこども食堂に缶茶を届けることができます。
中島:本区では「人と人とのつながり」を大切にしています。本事業では、高齢者のスマホの使い方の習得のみならず、みんチャレを通じて区内のこども食堂に寄付をすることで、地域がつながり支え合う仕組みづくりを目指します。
どのようなプロセスで実施したか
ー告知方法
渡邊:老人クラブの地区会でクラブ代表者に説明の上、スマホ講習会のチラシを配布し、代表者から各クラブ内での周知をお願いしました。しかし、コロナの影響で各クラブの対面の集まりが中止となり、周知がうまく行き届かない部分もありました。
そこで、老人クラブの運営役員などに個別でお声がけしました。みんチャレでチームを組む際には仲が良い方と一緒だとよいと考え、その方に「一人お知り合いを連れてきてくれませんか」とお願いしました。講習会当日は、地区が近い方同士でみんチャレのチームを組みました。
ー事業の実施方法
渡邊:令和4年9月に「みんチャレ」講習会を実施しました。講習会のサポーターとして、区内にある情報経営イノベーション専門職大学(以下、「iU大学」と記載。)の学生さんにご協力いただきました。参加者からは「学生さんから丁寧に教えていただき嬉しかった」と好評でした。
さらに、3ヶ月後の12月には、iU大学生さんたちによる発展編スマホ講座として、LINE・インターネット検索の使い方講座・PayPay体験・スマホの防災訓練を実施しました。みんチャレチームごとにLINEグループを作成し、そのLINEグループを使って災害時の連絡を擬似体験したり、実際に区役所の近くのコンビニエンスストアに出向いてキャッシュレス決済を体験してもらいました。
導入成果
ー取り組み成果
渡邊:令和4年度は48名が「みんチャレ」に参加し、スマホの継続利用に結びつけることができました。みんチャレ開始後90日間の継続者数は41名で、継続率85.4%と高い数値となっています。
渡邊:成果指標は、講座実施回数・参加人数に加えて、講習会に参加した結果どのくらいスマホを習得できたかを重視しています。例えば参加者の矢後さん(下図)は、墨田区のスマホ講習会をきっかけにスマホを購入しました。みんチャレに参加してスマホに慣れて、今では電車やバスの時刻表をスマホで確認したりなど楽しく活用されていて、そういった方が増えることは非常に嬉しいです。
関連記事:歳を重ねても新しいことに挑戦!80代が「みんチャレ」でスマホ習熟した秘訣とは?
中島:行政手続きがデジタル化する流れがあります。その中で取り残されてしまいかねない方が、本事業をきっかけにオンラインの申請手続きができるようになったり、防災情報をスマホで取得できたりなどの変化が見えてくることを期待しています。
ー参加者の声
渡邊:参加者からは「スマホを触る機会が増えた、文字入力とカメラを習得できた」という声を多くいただきました。参加者の60%以上の方がスマホ操作の習熟を実感されていて、事業の狙いが達成できたと思っています。
渡邊:老人クラブの方々は、知り合いではありますが友達というほどの関係ではない方が多いです。みんチャレでの交流をきっかけに仲が深まり、クラブ内の話題の一つにスマホが上がるようになりました。老人クラブ主催のバスツアーの際には、みんチャレの話題で持ちきりだったそうです。話題に上がらないと今スマホを持ってない人が持ちたいと思うようにはならないと思うので、今やってる方たちがインフルエンサー役になってくれたら嬉しいです。
ー職員目線のメリット
渡邊:今後本取組が老人クラブ内に広まると、いま回覧板や郵送・電話でやり取りしていることがスマホ上で行えるなどの変化を期待しています。
中島:昨今は行政単体だけでは解決できない課題が非常に増えていて、デジタルデバイド解消は特にそうだと思います。行政にはノウハウがなく、アプリも作れないという中で、エーテンラボさんと連携することで行政単体ではできない課題解決ができたことは、非常に有意義だと思います。渡邊さんがみんチャレのホームページを見つけて問い合わせてくれたことから始まったので、渡邊さんに感謝したいなと思います!
渡邊:本事業を通じて、産官学が連携した新規事業推進の経験ができ、企業との契約手続・庁内の会計手続など事業を成立させていくために必要なプロセスを学ぶことができました。さらに全国100自治体以上が参加する「ICTを活用したフレイル予防研究会」に参加し、事業成果を発表する機会を得ることができ、緊張はしましたが得難い経験でした!
中島:渡邊さんに対しては「入庁2年目でも民間企業とつながり、こんなすごい事業を行っているんだ」という声が庁内で聞こえてきました。ありがたいことに事業に関して注目をいただき、読売新聞さんなど外部の取材を受ける機会も増えました。広報課とのつながりも深まり、先日は区役所職員向け広報誌の職員インタビューを二人で受けさせていただきました。
議会からは、他区との比較や事業内容の詳細についてなど毎回必ず質問をいただいていて、注目されていると感じています。また、内閣官房主催の「冬のDigi田(デジデン)甲子園(※)」にて、本取組が全国172件の応募の中からインターネット投票で7位・審査員評価9位という順位をいただき、とても嬉しく思っています。
※デジタルの力を地域の課題解決や住民の利便性等につなげる「デジタル田園都市国家構想」の一環として、特に優れた取組やアイデアを表彰する内閣官房の取組。
今後の展望
渡邊:区の役割は、スマホ操作のスタートラインに立てる方を増やすことだと考えています。今後もみんチャレを活用して高齢者のスマホの基本操作の習得を支援し、行政や民間のスマホ体験会や個別相談会につなげていきます。
また、本取組を老人クラブ内で自走化できる仕組みづくりに取り組んでいきます。スマホを使い慣れてきた先輩受講生が、講習会補助員(スマホサポーター)として教える側に回ることでより多くの方に本取組を届けたいです。
中島:高齢者の方がスマホで使いたい機能は一人ひとり違うため、スマホの個別相談会も必要です。高齢者の方は行政主催のスマホ相談会の方が、民間企業主催のものと比べ、参加しやすいと聞きます。現在区では、月1回程度区内2カ所で個別相談会を開催しています。令和5年度も引き続き区内での個別相談会を設置しますので、高齢者の皆様に気軽に利用してほしいと思っています。
取材・写真・文:渋谷 恵(みんチャレ編集部) (※文中の敬称略。所属や氏名、インタビュー内容は取材当時のものです。)
参考動画
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